NEWS 2022

レコードの日 ミッツ・マングローブ インタビュー

取材・構成:島田舞


── ミッツさんが所属する星屑スキャットのアルバム「化粧室」が発売から4年半を経て、レコードの日に遂にアナログ盤がリリースとなります。

ミッツ・マングローブ 私は昔から音楽を「消費者」として「消費」することを経験してきました。例えばレコード屋さんに行って何時間もかけて選ぶとか、発売日を指折り数えて心待ちにするとか。正直、配信だけだと「消費」している実感が薄い気がします。自分が「消費者」として経験して来たことを、売り手側として提供したいという気持ちがありました。
今の配信サービスってすごく便利ですよね。仕事でその音楽をいろいろ聴いたりセレクトしたり、何か調べ物的な感覚で使うには、デジタル媒体は便利だと思う。場所も取りませんし。それとは別に、どんなに家や部屋が手狭になっていったとしても、ちゃんと自分で「所有する」という行為が、私にとっては大事なんです。フィジカルで常に手の届くところ、目の届くところにあって、どこに何があるか把握できていて、その序列や並びが今はこんな風になっているなとか、CD棚に並んでいる風景も含め、自分に中でその曲、そのアーティストに対する現在進行形の熱量が、どう存在しているかがとても大事。これは配信だとなかなか実感できないものです。


── レコードは何枚ぐらい所有されてるんですか?

ミッツ・マングローブ ちゃんと数えたことはありませんが、人から見たらそれなりの量かもしれません。物置部屋にまとめて置いているのと、リビングに出しているものもあります。選抜メンバーとそうじゃないメンバーで、時期によって入れ替えています。


── 最初に聴いたレコードは何ですか?

ミッツ・マングローブ 「およげ!たいやきくん」のレコードが家にありましたが、レコードプレーヤーは精密機器なので子供は触らせてもらえませんでした。聴くにはまず「たいやきくんが聴きたいなぁ」と何となく意思を親に伝えて、親の手が空いている時にかけてもらっていました。
中学生だった88年から90年は、日本の音楽市場もすでにCDの時代でしたが、当時住んでいたイギリスではアナログ市場が90年代に入ってからも続いており、自分の欲しい曲のシングルバージョンは、7インチのアナログを買わないと手に入らないということがよくありました。でもイギリスの家にはレコードプレーヤーがなかったため、友達の家で聴いたりしていました。


── イギリスに住んでいた時は、どのような音楽を聴いていましたか?

ミッツ・マングローブ 87年〜91年までの4年間の、UKのヒットチャート・ミュージックはほとんど聴きました。PWLというレーベル / プロダクションチームが作った曲が常にベスト10の中に複数曲入っているような時代で、当時10代前半だったので市場ターゲットとしてはドンピシャでしたね。ニューウェーブとかエレクトロポップ系、QUEEN やDacid Bowie、Elton Johnなどもまだまだ現役でしたし、アメリカから入ってくるMichael Jackson, Janet Jackson, Madonna, Whitney Houstonなどは言うまでもなく。それから何といっても、Wham!を解散直後のGeorge Michaelがソロキャリアをスタートさせたが私の中高時代とジャストタイミングだったのは大きかったですね。


── CD世代のミッツさんがレコードを買ったり集めるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

ミッツ・マングローブ 私は初めてクレジットカードを持ったのが2013年で、それからCDとかもオンラインで買うようになって、アナログもこんなにたくさん色々出ているんだと知り、改めてアナログプレーヤーを自分用に買いました。それから今まで自分が聴いてきたものを、CDだけでなくアナログでも揃え始めたんですね。もちろん当時のオリジナル盤は高値がついているし、入手がすごく難しいものもたくさんあって、日々「中古市場」に目を見張らせています。
同じ頃にHMV record shopが渋谷に新しくできたりして、過去の作品のいわゆる「再発ブーム」を知ったんです。再発盤は概してオリジナル盤とは音が違います。時代時代によってオーディオの性能や環境も進化・変化していっている中で、もちろん好き嫌いはあって当然ですが、そのようなオーディオトレンドとどう向き合うかも含め、「音楽をフィジカルに消費する」という自分がずっとやってきたことを、この先も続けていくでしょう。そして、音楽という製品が、今後どのように消費・伝承もしくは駆逐されていくかを、生きている限り見届けたいと思っています。そのために働いて、お金を使っているので。


── オリジナルを持っていても再発やリマスター盤が出ると欲しくなるものですか?

ミッツ・マングローブ 全部買いますね、当たり前じゃないですか。この間もユーミンの新しいベスト盤が出たんですが、かなり大胆なリマスターに耳や記憶が驚いちゃうことがあって。こんな風に好きな音楽と寄り添う未来が来るなんて、子供の頃は想像もできませんでした。ユーミンにしても達郎さんにしても、ずっと何十年も染みついた音や楽曲というのは、ちょっとした音色やバランスが変わるだけで、ものすごく体が反応する。音楽とともに生きてきた時間を改めて実感させられる瞬間ですよね。とても面白い。そして、それほどまでに人の記憶媒体に染みついている音楽を作り続けているユーミンや達郎さんの凄さ。


── 次に、レコードの日について色々お伺いしたいのですが。

ミッツ・マングローブ フィジカルの音楽メディアを知らない世代が、あえてレコードを買うというのは、ある種の非日常的な儀式(イベント)になっているのだとすれば、それはとても面白い現象だと思います。あと、ソファから立ち上がってステレオまで歩いて行って盤を裏返すのって、40代過ぎるとなかなか大変な作業になってくるので、若いうちにやっておいた方がいいと思います。
今はこのようなレコードの日というイベントがありますから、初めてレコードに触れる人もいるでしょうし、改めて興味を持つ人もいるでしょうし、私達みたいにレコードを出したことのない人もリリースできたりもします。私たちのアルバム「化粧室」は、このジャケットがLPサイズで店頭に並ぶというのが、そもそも事件です。手に取るのはもちろんのこと、前を通り過ぎるだけでもドキドキするような質感ですから。この手の風紀を乱すような凶暴な製品が、もっと並んでも良いと思うんです。私にもかつて「道徳的には良くなさそうだけど、どうしてもスルーできないジャケ買い」の経験があります。手に持ってレジに行く勇気があるかどうか試されるわけじゃないですか。もはや音楽なんかどうでもいい、そこに写っている男の裸にとにかくドキドキして、「でもこれを買ったらゲイだってばれるよな」とか思いながら、もう1個いらないCDもカムフラージュで買ったりしてね。そういう体験はデジタルだとできないですから。


── 「化粧室」のCDリリースは約4年半前ですが、当時と比べていかがですか?

ミッツ・マングローブ アナログ用にリマスターを施しました。収録されている楽曲によっては10年前の録音物もありますから。それがどうリスナーに届くかは分かりませんが、それなりに印象が変わっていると思いますよ。「別に直さなくてよかったじゃん」と思う人も、違いに気付かない人もいるかとは思いますが、リマスターって常にリスナーに対して荒波立てて、賛否を呼ぶレベルでなきゃいけないものでもないわけではありませんし、一方で再リリースをする際には、例え僅かでもリマスターを施すというのは、商業音楽の様式美でもあって、そのプロセスを私は怠りたくなかったということかもしれません。
だからちゃんと、帯に「2022年リマスター」という文言をつけるのは、私の消費経験上、マストな様式美のひとつとして外せないということでお願いしました。もちろん音的にいじりたかったというのもありましたけれど。

独りよがりなことなのかもしれないけれど、でも音楽とどうやって触れ合ったか?擦り切れたカセットテープで聴いた音楽が、その曲に関しては1番いい音として捉えているとか、あの曲はいつも商店街のスピーカーから流れてきたから、あのイメージだよなとか。そういう風に、レコードっていう体験の選択肢も残しておくことは生産者として大事なことです。ちょっと高いですけどね。お財布に余力があったらぜひ聴いてみてください。

化粧室

ダンサブルでファッショナブル!! コスメティックな星屑スキャットのファースト・アルバム(2018年作品) 夜空を彩るヒットパレードに世界中が息を呑む……。2022年最新リマスター/お洒落カラー盤

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