SPECIAL INTERVIEW 2019

折坂悠太

自身の7インチ・シングル制作をきっかけにハマったという折坂悠太が語る、人と人とをつなぐコミュニティとしてのレコード

 毎年11月3日に開催される『レコードの日』。アナログ・レコードの素晴らしさ、美しさを楽しむためスタートしたこのイベントも今年2019年で5年目となる。今年もレコード好きのミュージシャンやレーベルがこの日のために限定でアナログ・レコードを発売することになっているが、そんな今年のこの『レコードの日』のイメージ・キャラクターに選ばれたのは折坂悠太。フジテレビ系“月9”のドラマ『監察医 朝顔』の主題歌「朝顔」も大好評、飛ぶ鳥を落とす勢いのシンガー・ソングライターだ。ジャズ、フォーク、ソウル、民謡などを、あくまで同じ大衆音楽として捉え豊かな表現力で伝える彼の作品とライヴは、多くの過去の音楽財産を参照にしているというのに、すごく現代的で洒脱でみずみずしい。ありとあらゆる作品やアーティストが混交する現在の音楽シーンの空気を、歌の力で鮮やかに塗り替えた最重要アーティストと言っていいだろう。
 昨年リリースされ、多くのメディアで年間ベストの1枚に選出されるなど高く評価されたそんな折坂悠太のアルバム『平成』は、今年に入ってからアナログ・レコードでもリリースされたが、驚くことにほとんど店頭に並ばないうちに完売してしまった。「実は僕自身、レコードを買うようになってまだそんなに時間経ってないんですよ」と遠慮がちに話しながら取材現場に現れた折坂。でも、その手にはしっかりとお気に入りのレコードがあったのだった。というわけで、夏の暑い盛りに東洋化成のレコード・プレス工場でおこなったそんな折坂悠太とレコード談義をお届け。アナログ盤は共有財産と語るそんな折坂のレコード哲学とは?

インタビュー/文:岡村詩野
写真:平間至
ムービー:岡川太郎


――『平成』は最初からレコードでもリリースすることを想定していたのですか?

折坂 ジャケットの写真が撮れた時にこれはアナログで出したいな、レコードの大きなジャケットで手にしたいなと思っていました。ただ、アナログを出す出さないに限らずいつもアナログ:レコードのA面とB面に分かれるあの感覚……あれはずっと意識していて。そのきっかけになったのは、森は生きているのファースト(『森は生きている』)を聴いた時。彼ら、A面とB面を想定した曲順にしていて、実際にジャケットにも「Side A」「Side B」って記してある。アナログじゃなくてCDでもそれをやっているというところがとても面白いなと思って、自分もアルバムを作るときはそういう感覚を大事にしようと思っていました。

──では、A面とB面の違い、その切れ目というのをどのように考えていますか。

折坂 やっぱり空気がガラッと変わる曲というのA面の最後に持ってくることはあると思います。例えば『平成』だと、前半の5曲はアルバムの中でより本筋に近い音だと思うんです。「坂道」から始まって「逢引」「平成」「揺れる」という展開は、大きくって重いと言うか、割とウエイトのある流れになっている。ただ、それで終わりたくないなというのがあったから、A面の最後に一曲割と明るい曲を入れていっぺん終わりたかったんです。それが「旋毛からつま先」。で、B面……その後は雰囲気がガラッと変わる。ちょっと散文的な感じになっているんです。そういうことを考えるのも作り手としては楽しいですね。


──今日はお気に入りのレコードを3作品持ってきてくれています。ヴァン・モリソン『Live At The Grand Opera House Belfast』(1984年)、ライ・クーダー『Jazz』(1978年)、ニーナ・シモン『In Concert』(1964年)。

折坂 実は今日持ってきた3枚のうちこのヴァン・モリソンとライ・クーダーは京都で買ったんです。 今、京都のミュージシャンたちと重奏という編成でもライヴをやってるので京都へ行く機会が多いんです。ヴァン・モリソンのライヴ・アルバムは僕が生まれる2年前にリリースされたんですけど、ちょうどこれを買ったすぐ後に《UrBANGUILD》(京都のライヴ・ハウス)に行ったら、その日ライヴをそこでやっていたoono yuukiさんに「これは俺が生まれた年に出たアルバムだからちょうだい」って言われて。あげませんでしたけど(笑)。そのくらいoonoさんもすごく好きなアルバムなんだと思います。僕も ヴァン・モリソンは大好きでレコード・ショップに行ったらまず「V」のコーナーから見るくらい(笑)。とは言っても、僕、レコード歴はすごく浅くて自分の7インチ・シングル(「馬市」)を作った時に初めてレコード・プレーヤーを買ったくらい、本当に割と最近なんですよ。


──具体的にレコードのどういうところに魅力を感じましたか?

折坂 僕、映画館で働いていた時期が長くあって。ちょうどその頃ってフィルムからデジタルのプロジェクターに移行するタイミングだったんです。バイトで入って1年ぐらいたったらもう全部フィルムがデジタルに変わったそんな時でした。その時にアナログとデジタルの違いというのを結構感じることがあったんですね。で、自分で音楽作品を出すようになってから……当初はデジタルやCDでリリースしていたのが「馬市」の7インチ・レコードを作った時、そのフィルムとデジタルの違いを思い出したんです。フィルムを触ったりレコード盤を触ったりするのは、デジタルとは全然感覚が違うなということに気づいたんですね。手で触って確かめられる感覚……今この手の中にあるのが映画なんだ、これが音楽なんだって。でも、じゃあ音が出ないと価値がないかというとそういうわけではないじゃないですか。触っているだけでこれがモノなんだという感覚がありますよね。そういう多面性に気づかされたんです。でも、一方で、自分だけが所有するモノとはまた違う、「残って伝わっていく」というのも大きいと思います。自分がいなくなった後も、そのレコードはもしかすると中古レコード店とかに行けば売ってたりする。というか誰かの手にまた渡っていくでしょ?  自分が所有するだけじゃなくて流れていく…共有財産という側面もあると思うんですよ。実際、こうやって触っているだけで、誰かが元々は持っていたものが手放されて巡り巡って僕のところにやってきたんだなあ…という面白さがある。そういうのって中古レコードを買う時に感じたりしますね。僕が死んだ後、何10年後とかに、どこかのお店で「この首が曲がってるジャケット面白いな」(笑)って誰かが買ってくれるかもしれない。そういうことを想像すると、やっぱりレコードってモノとしての価値が強い気がしますね。そういえば、京都のレコード屋さん《ほんとレコード》に行った時に、コアなフリー・ジャズとかが多く置いてある店なんですけど、一番面出しで置いてあったのが宇多田ヒカルさんの『First Love』だったんです(笑)。それは店主の方の私物だったんですけど、その時に爆音でその『First Love』をかけてくれて。京都の一角で爆音で宇多田ヒカルさんのレコードを聴いてるって体験がまず面白いんですけど、実際にそれをレコードで聴いて、全然違う発見があったんですよね。


──ライブでいろいろな街を訪ねた際に、そうやってレコード・ショップに行くことが多いんですか?

折坂 そうですね。 今は京都に行くことが多いので京都のお店は何軒か知っています。《ほんとレコード》《エンゲルスガール》《100000t アローントコ》とか大好きです。東京にいるとパッと時間ができるって言う事があんまりなくて。目的に応じて行動することが多いので、その目的が終わったらすぐ帰っちゃう。なかなかふらっとレコード屋さんによるということがないんですよね。どこかいいところがあったら教えてください(笑)。逆に言えば、僕は「今日はレコ屋に行くぞ!」っていうような感じのリスナーじゃないのかもしれないです。すごく気合入れてレコードを買いに行くような方々の姿を見ているといいなって思いますよ。一方で、たった一枚をその日に買うっていうようなロマンもありますよね。配信だと一気に膨大な量聴いてしまうようなところがありますけど、 レコードはお金を貯めてたった一枚を買うというような良さもあると思うんです。だって決して安いものではないじゃないですか、新品で買ったら。自分のなけなしのお小遣いをレコードに使うわけでしょう? それってすごい豊かなことだしめちゃくちゃ粋な事ですよね。


──今、海外で細野晴臣さんや山下達郎さんのレコードがすごく人気で中古市場ではとても値段が上がってきています。細野さんの作品は去年海外で再発もされました。日本の音楽がそうやって古いレコードを通じて多くの若い世代に広がっていっていることをどのように感じていますか?

折坂 すごく面白いですよね。今は日本人が日本の音楽だけを聴いていたり、音楽を作る人も日本の音楽だけを聴いて作ったりするわけじゃなく、同時に色々な国の音楽と接しているわけじゃないですか。作品を作る立場になってみても、音の質感などから自分の国の音楽だけを聴いて作ってるんじゃないっていうことがよくわかるんですよ。たぶん細野さんなんかは特に海外の音楽を聴いてそれをお手本にしていただろうから、音の作り方がすごく世界基準になっていたんでしょうね。しかも、今はさらにインターネットも普及しているからみんなが世界基準になっていると言うか世界規格になっている。言葉がわからなくても音の質感でパッといいなと思えてしまう。そういう空気をすごく強く感じますね。


──今、世界共通イベントとして『レコード・ストア・デイ』が4月にあり、日本にはさらに折坂くんが今年のイメージ・キャラクターを務める『レコードの日』があります。こういう機会に何かレコードを通じたイベントでやってみたいことがありますか?

折坂 そうだなあ……その筋の音楽に詳しい人にレコードについての話を聞くようなレクチャーを受けるようなそんなイベントがあるといいな。実際に音をかけながら話を聞くみたいな感じの。実は、さっき話した宇多田ヒカルさんのレコードを爆音で聴かせてもらった京都の《ほんとレコード》で、僕が訪ねて行ったことがきっかけになって、後日「宇多田ヒカルナイト」が開催されたんですね。宇多田さんの映像を観たり作品を聴き倒したりするイベント。で、僕もそれに電話で出演したんですよ。「あなたにとっての宇多田ヒカルとは?」みたいなのを語ったりして。すごく面白かったですよ。僕が何か話したら、電話の向こうで大勢の人たちが「そうそう!」って盛り上がってて(笑)。そういうのやりたいですね。やりたいっていうか、単純に参加したい。そういう場で、「僕このレコードを持ってるんですけどどうですか?」で尋ねてみたいです。ていうか、世界中のどこかで毎日そういうレコードをテーマにみんなで熱く話したり聴き合ったりするようなイベントがあるといいですね。僕は話を聞きに参加します。マニアの熱い話についていけないのが逆に面白いんで(笑)。

リリース情報:https://record-day.jp/item/orsk-008/
折坂悠太 うえぶ:http://orisakayuta.jp
折坂悠太 アミューズオフィシャルサイト:https://artist.amuse.co.jp/artist/orisaka_yuta/

 
 

 
 
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