SPECIAL INTERVIEW 2022

tofubeats レコードの日 SPECIAL INTERVIEW 2022

レコードは「強制的に自分に音楽を聴かせる装置」。
レコードで出してくれた人へのリスペクトも含めて、この時代にレコードを買う意味はあると思う。

インタビュー/文:島田舞
写真:岩澤高雄
協力:黄金湯


── まずはレコードとの出会いを教えてください。

tofubeats 父親が音楽好きで、元々家にレコードがありまして、その中にはBob Jamesとか、The Crusadersなどが入っていました。自分が中学生のときにHIP HOPを好きになったことがきっかけで、安いレコードプレーヤーを買ってもらい、家のレコードを聴いたのが最初です。


── 現在ターンテーブルはどのブランドのものを使っているんですか?

tofubeats 
Technicsの「SL-1200 MK3D」を2台使っています。それも両方人から頂いたもので、たまたまどっちもMK3Dだったんですけど。最新作『REFLECTION』のジャケをデザインして下さったデザイナーの方が結婚されたときに、その奥さんもターンテーブルを持っており、家に2台もいらないということで1台そこからいただいたっていうものと、もう一つは先輩から借りパクしたっていう曰く付きのものです(笑)。
そこから10年近く愛用していますが、本当に壊れないんですよね。


── 今はサブスクで大体の音楽が聴ける中で、「レコードを買っている理由」はなんでしょうか?

tofubeats レコードにはレコードの「感じ」っていうのがあって、サブスクとは関係ないっていうか、交換できるものじゃないと思います。レコードは「強制的に自分に音楽を聴かせる装置」だと思っていて。サブスクだと流して聴くことも多いし、実際自分もそうしないと新譜とかも追いきれないんですけどね。レコードで買ったものは強制的に自分にそれを聴かせる力があると思うし、だからこそレコードで欲しいと思うタイトルがあって、サブスクで聴いたりデータで持っていたりしても、レコードで買うものもあります。買ったまま未開封のままで置いているやつとかもあるけど、「そのレコードを持っている」ことが自分にとっては大事だと思うし。あとサブスクよりお金を払っているんで、お店やレーベルにお金が入る、アーティストへ還元されるという意味でも、レコードの新譜を買う意味はあるのかなと思います。それに、サブスク全盛の時代でレコードを出してくれている人にはそれだけ気概があるというか、自分の作品を「レコードで届けたい」という意思表示があるじゃないですか。それに対しての感謝というか、コミュニケーションとしても、やっぱりレコードを買う意味はあると思いますね。


── レコードで出してくれた人へのリスペクトですね。ご自身でもレコードを出されていますが、パッケージのディレクションなども含めてご自身でやっているんですか?

tofubeats メジャーになってからはディレクションをお任せしているので、自分のお願いする以上のことは基本しないようにしています。頼んだ上でどんなものが出てもOKですし。AかB、どっちがいいですか?と聞かれたら答えますが。ただインディー時代の『水星』のジャケットは僕が撮った写真で、自分でイラストレーターを使ってデザインしました。だからこの写真はちょっとピントが合ってないんですよね(笑)。今でも自分のレーベルから出しているものは、全部自分でプレスから納品までやります。メジャーの際は、人と分業なので自分は口出ししないし、インディーでやるなら全部自分でマスタリングもやって、工場とやりとりをして。工程を分かっていた方が楽しいし、任せる面白さもあると思うし。よりけりって感じですね。


── レコード自体の仕様にこだわりはありますか?

tofubeats ジャケットがゲートフォールド(見開き)だと嬉しいです。ただ自分の作品ではお値段的に中々実現出来ないですね(笑)。ただそこまでこだわりはないかもしれないですね。聴ければいいっていうか。でも12インチをよく買っていると、やっぱりジャケがついているレコードの方が嬉しくなります。


── 確かにレコードってビジュアルも結構重要ですよね。例えば帯が付いているとか付いていないとか、そういうのはあまり気にしないですか?

tofubeats 帯とか細かいディティールを気にしだすと、コレクター気質になっちゃうかと思っていて。自分はシュリンクとか空けたら逆にすぐ捨てるようにしているんですよ。大事にして「資産価値が高まるかも」みたいな、自分のものに色目を使いたくない気持ちも少しあって…。


── いい意味で雑にというか、日常使いというか。

tofubeats レコードは聴いてこそだと思っているので。とか言って、未開封のレコードもあるって言ったんですけど(笑)。人から頂いた貴重なもので、あまり針を落としたくないなっていう盤もありますけど、基本的には気にしないようにしています。


── ちなみによく行っているレコード屋さんはどこですか?

tofubeats よく新譜を買っているのは、大阪にあるNEWTONE RECORDSさんっていうお店ですね。中古だと京都のVINYL7 RECORDSさんとか、やっぱり関西のお店が多いですね。


── 最近狙っているレコードはありますか?

tofubeats 見つけたらすぐ買うようにしているし、これを狙っているとかはないですね。キリがないのでレア盤には固執しないようにしています。自分がレコードを集め始めたときはレアグルーヴ全盛期で、レア盤に対しては複雑な感情というか…だから、手に入りやすいものを買うことが多いですね。やっぱり無茶苦茶高いと聴きにくくなっちゃうじゃないですか。だからYouTubeで聴いて再発が出るまで待つことが多くて、再発が発売されたら買うようにしています。
あと、詳しい人からのレコメンドが一番精度が高いと思います。趣味が合うレコード屋さんのレコメンドを正直に信じて買うことが多いですね。先程紹介したNEWTONE RECORDSさんのレコメンドも合うし、VINYL7 RECORDSさんの店主も高校時代からお世話になっていて、「こういうの好きでしょ?」って次々自分の好みに合ったテイストのものを出してくれて、それを全部買うみたいな。


── サブスクで自分が聴いている曲から、他の曲をレコメンドしてくれる機能があるじゃないですか。そういうAIみたいに好みを把握してくれているんですね。

tofubeats そうですね。Spotifyのレコメンドをよく使うんですけど、人からだと全く別ベクトルのおすすめをしてくれるんですよ。VINYL7の松本さんとかは、「このエンジニアのやっているこれいいよ」とか、レーベルでおすすめしてくれたりとか。結局、AIって学習させないといけないんですけど、詳しい人は過程とか一足飛びに紹介してくれるので、レコード屋の店員さんは非常にありがたい存在です。だからこちらもdigるとか差し出がましいこと言わずに、「教えてください!」って言って教えて貰っています(笑)。


── レコメンド以外で、偶発的に出会ったもので「これはやばい!」っていうのはありますか?

tofubeats 去年、ハウスで『I believe in the power of love』という名前のレコードを、曲名が良いから買ったら内容も良くって。他に情報が全く無くて、探したらサブスクにはあったんですけど、そういう出会いは嬉しいですね。あと、昨日このインタビューのためにレコードを整理している時に、ホワイトレーベルのレコードが出てきて、めっちゃいい曲だけど何の何か全然わからないっていう(笑)。


── レコードあるあるというか…ジャケだけだと全くわからなくて、「これ何だっけ?」みたいなレコードってありますよね(笑)。

tofubeats それでレコード裁判を始めるという。「これいるやつだったっけ?」とそのレコードを聴きだして、時間が溶けていくという(笑)。


── その時間も楽しいですよね。今もレコードを使ってDJをされる機会はありますか?

tofubeats 今は自分の曲をライヴで演奏するのがメインなので、その機会も減ってしまいましたが、3〜4年前まではレコードを使ってDJもしていましたね。インターネットのイメージが強かったので、レコード買っていますよとか言うと驚かれることは多かったんですけど、MIXもできますし、CDでDJをやっていた時はレコードは何枚か持っていって流していました。


── 今、レコードの再ブームというか、売上もここ10年でまた上がって来ていますよね。その影響を感じることはありますか?

tofubeats 僕としては正直実感がないですね。レコードってずっとあるもので、ブームと言われる前から淡々と欲しいものをずっと買い続けていたんですけど。今またレコードの生産量が増えて欲しいレコードを買い逃すことが減るのであれば、それに越したことはないと思います。


── 現在SNSでは、曲の一部を切り抜いて作られたショート動画が瞬間的・偶発的にヒットするなど、音楽の消費の仕方が早くなっている傾向が見られますよね。そのようなレコードの消費の仕方とは異なる、所謂”バイラルヒット”についてどう感じていますか?

tofubeats 個人的には消費の早いものっていうのは遅いものの代わりに生まれたものじゃなくて、それぞれ代替がきかないものだと考えています。ショート動画が流行っているから、若者がレコードを聴かなくなるかっていうと全然そうじゃないし。何か対立軸に置いていること自体が、自分的にはあんまりしっくり来ていないですね。そもそも軸が違うから新しいメディアが増えても大きな影響は無いと思います。もしくはSNSでのバズりきっかけでレコードが出るなんていうこともあるかもしれないし、そうなったら面白いですよね。


── 基本的には別軸だけど、もしかしたらどこかで交わるかもしれない。

tofubeats そうですね。だから両立は可能だと思うし、そんな悪いイメージは抱いていないです。


── 最後にお気に入りのレコードを持ってきて頂いたので、そちらのご紹介をお願いします。

■B. B. & Q. BAND 『GENIE』

B. B. & Q. Bandは、先程も話に上がったVINYL7 RECORDSの店主である松本さんから教えて貰いました。松本さんは当時のバックグラウンドや、その音楽のルーツから、新しい興味を引っ張り出してくれるのが上手な方で、色んなことを教えて頂きました。これに入ってる「Dreamer」という曲がめちゃくちゃいい曲です。「このバンドはラテン系の方がやっていて、でも当時ニューヨークでラテン系っていうのはこういう立ち位置で、そういうところからハウスが出てきて」みたいな話とか、歴史っぽいところを交えてコメントしてくれるんで、他のレコードにもちゃんと興味持たせてくれるから次のレコードにも行きやすいんですよ。

■SUGURU IIDA『SPRING SNOW』

一昨年に、「プレスとか流通とかメジャーに行ってからやってないな。お店に納品書とか書いて卸したいな。」という理由で、自分のHIHATTというレーベルを始めまして、これはそこで作った、SUGURU IIDAというアーティストのレコードです。フランスのプレス会社に自分で連絡して、入金して、プレスして、通関して、納品書書いて、みたいなのを大人になって久々にやったという。


── 代行業者も挟まず全部ご自身で進行されたのですか?

tofubeats そうです。それがやりたかったし、流通の事とかを分かってないのに、メジャーアーティストとして長くやるのは嫌じゃないですか。昔は自分でCD-Rとかをレコード屋に卸していたから、やり方は知っていたんですけど。久々に全部自分で作って、家に在庫があって、そのプレッシャーとかを久々に感じることが出来て結構楽しかったです(笑)。自分でやれば学びがあるし。


── そういう裏方的なお仕事も好きなんですね。

tofubeats そうですね、あと自分でやることによって、人に口出ししやすいじゃないですか。「tofubeatsは侮れない」と思われる様に、たまには自分でしようと(笑)。

■小泉今日子『DUB MASTER X REMIX』

これは今でもDJでめちゃくちゃかけている、日本のハウスで1番好きな曲。小泉今日子さんの「プロセス」っていう曲をDUB MASTER XさんがREMIXした曲です。12分ぐらいあるのに、8分ぐらいイントロで「あなたに出会うためのプロセスね」っていう歌詞がいきなり始まってロマンチックだな〜っていう。これは昔仲良い友達で、ハードコアパンクのバンドをやっていた子の家になぜかこれがあって、100円ぐらいで買ったらしく「いらんからあげるわ」って貰ったんですよね。その友達は亡くなっちゃったんですけど、亡くなる前からこのレコードはずっと気に入っていて。彼とはもう会うことが出来ないし、更に意味を帯びてきて面白いなと、やたら記憶に残っているレコードなんですよね。あとジャケが変じゃないですか(笑)。こんな素っ頓狂なレコードが思い出の一枚になるのが、レコードの面白さのひとつだなと思います。

■tofubeats 『REFLECTION』

そしてこれは4月に出たアルバム『REFLECTION』のLP盤で、11月3日レコードの日に発売されます。先に出たアルバムから曲を一部抜粋してLP1枚に収めたんですけど、180グラムで重量盤です。今回マスタリングをしていただいたエンジニアの方から、東洋化成さんのカッティングエンジニアを紹介してもらったのですが、とても良い仕上がりにしてもらいました。中のアートワークも、CD盤のものからレコード用に全部作り替えてもらって、レコード映えするようになっています。ドラムンベース・J-POPなどが入っていて、プレスもいい感じなので、是非聴いて頂きたいです!

REFLECTION

中村佳穂、Neibiss、Kotetsu Shoichiro、UG Noodleといった多彩なアーティストがゲスト参加したtofubeatsの5th Album『REFLECTION』がLP化!「レコードの日 2022」の11月3日(木・祝)にリリース決定!

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