SPECIAL INTERVIEW 2021

竹内まりや レコードの日 SPECIAL INTERVIEW 2021


── 今回の「プラスティックラブ」、『ヴァラエティ』、『リクエスト』の発売、待ち望んでた方本当に沢山いらっしゃると思います。最近のアナログ市場の盛り上がり、まりやさんはどう感じられているんでしょうか。

竹内 近年アナログの需要がものすごく高まっていることは何となく知ってはいたんですけど、このようなタイミングに再びリリースができて凄く光栄です。こんな風にお店とレコードメーカーとアーティストが一緒になって、その魅力を伝えていくイベントを開くのは素敵なことですよね。私も是非盛り上げていきたいなと思っています。


── まりやさんは普段、どんな風に新しい音楽を探したり入手されていますか。

竹内 実際にお店に行って探す機会は店舗の減少とともに減ってしまったんですけど、欲しいものがあるときはウェブで確認してから、達郎にダブってないか聞いてから買ったりすることもあります(笑)。実際にお店に行けたらとは思うんですが、コロナ禍ということもあって、最近はそんな風にウェブを使って買うことが多いかも。でもお店でレコードを買うって、そこでしか体験できないことが沢山あるんですよね。


── 確かにレコード店には自分で行って見つける楽しさがありますよね。気になったものはその場で視聴したりして。

竹内 私たちは小さい頃からレコードに針を落とす体験をしてますけど、文化としてそれを体験したことのない若い人も多いと思うんです。今はアレクサに話しかければ即時にさまざまな音楽をかけてくれて、それが日常になってしまってる。だから実際に針を落とす行為や、聴こえてくるアナログの暖かい音を感じる体験をしてもらえたらいいなと思っています。最近はポータブルのものだったり、いくつも機材を揃えなくてもレコードが聴けるレコードプレイヤーも増えてきていると思うので、より気軽にその体験ができるんじゃないかな。


── 今サブスクやyoutubeで定額、ましてや無料で音楽が手に入る時代に、アナログレコードが若者の心に刺さるのは、不思議なことなんでしょうか。

竹内 でもそれはすごく気持ちとしてわかる現象ですよ。楽に音楽が手に入ってしまうからこそ、逆に本当に自分が聞きたいものを探していく面白さや深さがアナログにはあると思う。アナログ盤ならではの音の温かさとか、針を落とす行為にしろ、音楽を聴くために必要な”時間”とか”ツール”がたくさん必要じゃないですか。それらの儀式的なことを含めた全てのプロセスがサブスクなどでは体験できない、アナログの良さなんじゃないかなと思っています。次々に新しい音楽が溢れ、飽和状態の中でなんとなく音楽を聴いていた人たちが、アナログレコードの世界に出会うことで、自分で探してたどり着いた曲を聴くことを「楽しい」と思うのは、ある意味当たり前のことなのかもしれないですよね。私たちの世代からすると、逆に原点回帰する感じなのかな。懐かしくもあるけれど、改めて魅力に気づくような感覚です。


── なるほど。確かにデジタルとアナログ、両方をそれぞれ使い分けている感覚はあります。その二択があることで、様々なシチュエーションで音楽を楽しむ機会が増えますよね。

竹内 出先や旅先では音楽を聴く時はスマホで手軽に音楽を聴いて、でもそれとはまた別に、特別な時間として家のスピーカーでアナログを聴く時間もあれば、きっと豊かな気分になれますよね。昔はステレオセットに天鵞絨のカーテンのような布ををかけていたりして、それをめくってからゆっくり針を落として。当時はA面からB面が自動で切り替わるオートチェンジャーなどを使っていたこともあったので、その切り替わる時の音まで楽しんで。それがリスニングするという特別な時間でしたから、なんだか贅沢だったなと思いますね。音に耳を澄ますことに専念するというかね。手間暇かけて聴くことの豊かさがあったり。もちろん、クリアに聴こえるCDの方が好きな方もいらっしゃると思うのですが、個人的にはやっぱりアナログの音が圧倒的に好きです。レコードはもちろん傷がついたら針が飛んでしまったり、ノイズが出たり、手入れが必要ですが、それを含めてアナログの魅力なんだと思います。


── ジャケットのデザインもレコードサイズならではの存在感がありますよね。

竹内 その大きさがいいんですよね。まずこれは一つのアートとして成り立つ。CDの時代になった時はジャケットデザインを考える楽しみが半減してしまったくらい。もはやサブスク時代の今となってはジャケットのデザインは画面だけでも成立してしまうのかもしれないですね。だからこうして改めてアナログのジャケットを眺めると良いなと思います。ジョニ・ミッチェルとかジェームス・テイラーのジャケットとか、お気に入りのジャケットは沢山ありますね。ジャケットが物語る何かを感じるのも楽しみのひとつですね。


── 近年、まりやさんの曲を聴いて、ファンになったり、シティポップと呼ばれる音楽を聴くようになった若者や海外のリスナーも多いと思うのですが、その現象についてはどう感じていますか。

竹内 ここ最近「プラスティックラブ」がyoutubeに上がって沢山再生されているという現象は知ってはいたんですけれど、最初は一体どうなってるの?と思いましたよ。(笑)それに至ったのには、さまざまな複合的要素があるんだと思います。韓国のDJであるナイトテンポさんが私の曲を紹介してくれたり、曲に合わせて編集されたアニメーション動画との相乗効果もあったのかもしれない。沢山のカヴァーが上がってきたりしたし。でもやっぱり、この曲は達郎がプロデュース・アレンジしたトラックの持つ普遍性というか、今の若者にも通用する良質な音だった、ということなんだと思いますね。あとはちょっと虚無的な都会の孤独感を歌詞にしたことで、あの時代へのノスタルジーな世界観が生まれて、そこに共感したり憧れたりする海外の人たちもいたんじゃないかな。


──「プラスティックラブ」は、コンピューターのプログラミングをするように恋を操りながら、孤独と生きる都会の女性像が描かれているんですよね。

竹内 そうなんです。元々リズムボックスに入っていた定番の16ビートの音をずっと鳴らしながらコードをつけ、メロディーをつけて、最後に歌詞を考えて作った曲なんですけど。こういう陰のあるメロディには、孤独な夜の都会の女性像が似合うかなと。少し遊び心も込めて作った曲でもあるんですが、今でも私のオケとしてはベストトラックだと思っています。伊藤広規(ベース)と青山純(ドラム)のリズム隊、達郎のアレンジしたストリングスにブラス、そして大貫妙子さんと私のコーラスが重なって。全てが融合的で無駄のないアレンジだったからこそ時代を超えて受け入れられたのだと思います。大好きなこの曲が改めて幅広い世代の方々に評価されていることは本当にありがたいですね。とはいえ、あの時代の日本製AORというか、シティポップというジャンルの音楽になぜこれほどまで若者が肝心を寄せたのかを分析してみても、最終的によくわからなくて、いまだに「不思議な現象だなぁ」というのが正直なところです(笑)。 


── コロナ以前クラブなど街の遊び場では、沢山のDJの方々がまりやさんの曲をプレイしている場面も多く見かけました。まりやさんの描いたこの歌詞に共感している今の若い方も沢山いると思います。

竹内 今の若い世代は、予備知識とかに関係なく自分のアンテナにひっかかったものが古かろうが新しかろうが、”良いものは良い”っていう直感的な聴き方をしている気がするんです。ジャンルとかもあまり系統立てることなく、洋楽とか邦楽を超えて、沢山の音楽が彼らの中に共存しているから、ある意味すごく素直なリスナーなのかもしれない。情報がいくらでも入ってくるから自分でチョイスできる、その自由度は高くなってるかもしれないけれど、その分、的確な選択の判断も必要だったりしますね。私たちが子供の頃は、LPを一枚がものすごく高かったからお店で試聴したり、ジャケが気に入ったものを、もう本当に清水の舞台から飛び降りるような気持ちで買ったりね(笑)。ジャケ買いしてしまったあと、聴いてみたらイマイチな曲ばっかりでも気に入ろうとうとしてすごく努力したり(笑)。だから今は本当に贅沢な時代ですよね。羨ましい!


──「プラスティックラブ」は近年、沢山のアーティストによるカバーが生まれているということも印象的です。

竹内 そうなんですよね。私も驚いてます。中でもFryday Night PlansやTofubeatsなどとても良くて印象に残っています。あとは事務所の後輩にあたるんですが、(今回のレコードの日でシングルリリースされる)eiilの歌声とアレンジも素敵でしたね。あとは2年くらい前に、youtubeでデビュー前の藤井風さんが弾き語りしてるのを聴いて、男の子が歌う「プラスティック・ラブ」もまた新鮮で良いと思いました。海外のファンの方が歌ったり踊ったりしてくれている動画なんかもあるのですが、見るたびに楽しくなります。インドネシアの女の子が完璧な日本語で歌ってくださったりもしていて。そうやって自分の曲から沢山のカバーバージョンが生まれることは嬉しいことですね。


── それでは最後に、自身の音楽活動を通してどんなことを伝えていきたいですか。

竹内 私にとって音楽は、歌詞のメッセージを伝えること云々というよりは、歌やサウンドが生み出す全体的な空気感を共有し合うことを大切にしたいといつも思っているんです。そして、リスナーの皆さんの人生の中に私の音楽との接点が何か見つかったり、小さな癒やしになったりすれば、それが何よりの喜びですし、その時の気分や年齢に合ういろんな楽曲が私の音楽の中にあればいいなと思っています。私自身、好きな音楽ジャンルは沢山あるので、それを自分の音楽にも生かして、これからもいろんなタイプの曲を作り歌っていきたいですし、その中から自由に選んで聴いてもらえたら嬉しいです。これからも世代を超えて親しんでいただけるような、普遍的なものを作り続けていくのが目標ですね。自己模倣になるのでもなく、新しいことにトライしてみたり、そこから生まれる化学反応を楽しみたい。例えば他のミュージシャンの方々とコラボしてみたりも含めて、まだまだいろんなチャレンジを続けていきたいなと思います。人生の歩みの中で、年齢が制限をかけて来ることもあるかもしれない。でも、その中でもやれることをやって楽しみたいし、音楽に対する好奇心はずっと続いていくと思いますね。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

インタビュー・文/Mayu Kakihata
写真/菊地英二
協力/QUATTRO LABOHMV record shop Shibuya
 
 

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